「クリスマスの酒場」(横溝正史)

真相は一体?謎が深まります。

「クリスマスの酒場」(横溝正史)
(「青い外套を着た女」)角川文庫

クリスマスの夜、
仏国へと渡航する緒方は、
船の出る間際の時間、友人・栗林に
引き留められるようにして
その酒場に佇んでいた。
そこに現れた娘が
緒方に奇妙な申し立てをする。
5年前のクリスマスの夜から
ずっと待っていたと…。

緒方と栗林の二人の間に、この黄枝、
そしてポパイの仮面を被った男が
割り込み、
何やら暗い過去が暴かれそうな雰囲気に
移行していきます。
真相は一体?

本作品の味わいどころ①
かつての花売り娘・黄枝の述懐

5年前のクリスマスの夜、
酔客に襲われていたところを
助けてもらったお礼を言うため、
この酒場で緒方を待っていた。
ここまでは美談です。
しかし、お礼とともに
恨みを晴らすためというのですから
穏やかではありません。
そのとき緒方が黄枝の肩に掛けた
ジャンパーのポケットに入っていた
ハンドバッグが動かぬ証拠となり、
黄枝の父親が警察に逮捕され、
獄死したというのです。
真相は一体?
謎が深まります。

本作品の味わいどころ②
ポパイの仮面を被った男の告白

そこに割り込んできたのが
ポパイの仮面を被った謎の男。
黄枝の父親が巻き込まれた事件とは、
その男の妻が殺害された事件であり、
その真相を知るため、
男は黄枝の動向を探り、
緒方の現れるのを
待っていたというのです。
果たして緒方は殺人事件と
どう関わり合っているのか?
真相は一体?
謎が大きく深まります。

本作品の味わいどころ③
鍵を握るロケットの中の写真

事件の証拠品の一つであるロケットを、
黄枝は警察にも渡さずに
密かに所持していました。
そして仮面の男もそのロケットを
殺人事件の証拠品として
探していたのです。
「突然、ポパイが手を伸ばして
 そのロケットを取り上げた。
 震える手で、
 パチッとそれを開いた。
 息づまるような興奮のひととき」

真相は一体?
謎がさらに大きく深まります。

さて、横溝作品というと、
何かおどろおどろしいものばかりという
印象がありますが、戦前の作品は
決してそうではありません。
本作品も、読み進めるうちに
何ともいえない暗い過去が
暴かれそうになりながら、
最後に大どんでん返しが
待ち構えていて、クリスマスらしい
爽やかな幕切れを迎えます。
その大どんでん返しこそ、
本作品の真の味わいどころなのです。
ぜひご一読ください。

※本書は絶版中ですが、
 昨年刊行された
 「横溝正史ミステリ
 短篇コレクション6 空蝉処女」に
 収録されています。

※最後まで明かされない謎が
 一つだけあります。
 ポパイの仮面を被った男は
 最後までその仮面を外しません。
 その下には
 どんな素顔があったのか?
 いや、それ以前になぜ
 ポパイの仮面を被っていなければ
 ならなかったのか?
 本作品の最大の謎です。

(2019.12.20)

bluartpapelariaによるPixabayからの画像

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